1「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」とは?
強度の精神病とは、民法752条の協力扶助義務を十分に果たすことができない程度の精神障害をいいます。例えば、統合失調症、そううつ病、偏執病等の高度の精神病がこれに当たります。これらの精神病が回復の見込みがない場合に離婚が認められます。
ただし、本号を理由に離婚請求しようとする場合には、これまで誠実に療養と生活の面倒を看てきたこと、病者の今後の療養、生活に具体的な方途を持っていることが必要です。もっとも,近時の判例は,この具体的方途の見込みを,過去の療養費を支払い,将来の治療費についても可能な範囲で支払意思のあることを表明していることや,病者が離婚後に公的扶助で生活できること等によっても認めているので,この要件の認定はかなり緩和されています。
なお、回復の見込みのない強度の精神病とはいえない場合であっても、それが原因となって婚姻が破たんしている場合には、婚姻を継続し難い重大な事由に該当するとして、離婚が認められることがあります。
2 立証方法
回復の見込みのない精神病であることを立証する証拠方法としては、以下のようなものがあります。
証拠方法 |
入手方法 |
診断書 |
病院から入手 |
鑑定書 |
3 精神病に罹患した配偶者の今後の監護を行う手だてとして検討すべき事項
配偶者が強度の精神病に罹患したことを離婚事由とする場合、一方当事者の婚姻から解放される利益と精神病に罹患した配偶者の保護を総合考慮して、その配偶者の今後の監護を行う手だてを考え、衛材的な困窮を回避する方途を見つけなければなりません。その方途としては以下のようなものが考えられます。
配偶者の今後の監護を行う手だて |
1.生活費の負担 |
2.医療費の負担 |
3.配偶者に代わる保護者の選定 |
4.療養の受入先の選定 |
4 強度の精神病に罹患している配偶者に対する離婚請求手続
配偶者が強度の精神病に罹患している場合、話し合いを前提とする調停にはなじまないことが多く、訴訟で解決を図ることになります。配偶者が精神病に罹患していて、後見開始の要件を満たすような状況にあっても、未だ後見開始の審判を得ていない場合には、後見開始の審判を得て、成年後見人または成年後見監督人を被告として訴えを提起すべきものとされています(最判昭和33年7月25日)
5 裁判例(長野地判平成2年9月17日)
① Xは,Yが○O荘に入所した後,1週間ないしは2週間に1度の割合でYを見舞い,食事をとらせたり,爪を切るなどの世話をしている。 Xは,Yの○○荘入所後,親族や知人の勧めもあって再婚を考えるようになり,本訴によつてYとの離婚を求めるに至つたが,離婚後もYへの若干の経済的援助及び面会などすることを考えている。 |
② Yの両親は既に(母は昭和46年に,父はそれ以前に。)死亡しており,Yの親族としては異父兄が1人いる(同人には2人の子供がいる。)が,原告及びYと同人とは少くとも原告らの婚姻後親密な交際をしたことはなく,Yの発病後もXが同人に協力を求めたことはなかったし,Xが同人にYが入院した事情を説明したときにも同人はXらに対して協力的ではなく,現在,Xらと同人とは年賀状をやり取りする程度の付き合いで,Xらと同人の子らとは全く交渉がない。 |
③ ○○荘は,○○県内の18の市町村が設置したところの広域行政事務組合が運営している特別養護老人ホームで,24時間完全介護施設である。運営費の大部分は公費で賄われ(民間からの寄付も若干ある。),入所者の扶養義務者は前年度の所得税額に応じて費用を負担することになっており,Yの扶養義務者であるXの負担額は1か月当り9000円である。XとYとが離婚した場合にはYの扶養義務者として費用を負担する者はいなくなり,全額公費負担となる。 |
④ XY間の婚姻関係は,Yがアルツハイマー病に(又は同時にパーキンソン病にも。)罹患し,長期間に亘り夫婦間の協力義務を全く果せないでいることなどによって破綻していることが明らかであり,右の①ないし③の各事実をも併せて考慮すると,原告の民法770条1項5号に基づく離婚請求はこれを認容するのが相当である(なお,Yの罹患している病気の性質及び前記のとおりYに対する精神鑑定が禁治産宣告申立事件のためになされたものであることなどの理由により,本件の場合が民法770条1項4号に該当するか否かについては疑問が残るので,同号による離婚請求は認容し難い。)。 |
東京都墨田区錦糸町・押上
離婚・夫婦・子どもに関するご相談で弁護士を お探しなら、アライアンス法律事務所
までお気軽にご連絡下さい。
東京都墨田区太平4-9-3第2大正ビル1階
電話 03-5819-0055